は昔から「勉強して成績を上げる」というような漠然とした目標を達成するのが大の苦手だった。その代わりに実現可能な直近の目標を立てては大きな声で公言し、その実現に猪突(ちょとつ)猛進するのは得意だ。「このドリルを1週間で1冊仕上げるぞ!」と決めて、成し遂げることで快感を得るタイプ。見方を変えれば持続力がないだけとも言うが…。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症したからといって、心まで侵されることはない。現在に至るまで次から次へと、直近の目標を掲げている。こういった私の猪突猛進型の性分は、ALSという難敵に対峙(たいじ)するのに大いにプラスに作用している。
「熱中できる目標を持つ」と、日々の暮らしにエネルギッシュになれる。「アレもできなくなった。コレもできなくなった」と悲観せず「アレもできる! コレもできる!」という気持ちが大事。「やっと時間ができた」くらいに頭を切り替えた。
ALSと診断されてから、三つの具体的な目標を公言した。一つ目は、つらくてもやらねばならないこと。そう、思い出の詰まった歯科医院の閉院だった。

(広島市南区)
広島市南区に「ゴリラのマーク」のみほ歯科医院を開設したのはもう17年前。患者さんと従業員に恵まれ、地域医療に携わるのは、忙しくも幸せな生活だった。だが、指先や腕にも症状が現れ、ALSと病名を告知される頃には診療が苦痛になってきた。
治る見込みのない進行性の病と知ってからは、医院の後片付けに全力で取り組んだ。患者さんと従業員を路頭に迷わせるわけにはいかない。医院を任せられる先生探しにまい進した。「同窓会や医局を頼ればすぐに見つかるだろう」くらいの気持ちでいたが、すんなりとはいかなかった。
後任の先生にすべてを引き渡した上で、みほ歯科医院に幕を下ろしたのは2012年末のことだった。診療所を手放すのは開院以上に大変だった。だが、この時期は日増しに症状が悪化していたので、悩む暇もなかった。
さて、あと二つの目標は「病気の進行を全力で止める」「広島のオートバイレース史をまとめる」。さあ全力で突っ込むぞ。
<中国新聞 2019年(令和元年)5月1日(水曜日)掲載>