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ALSひるまず力まず10 ~「座して待つ」より治験に活路~

ALSひるまず力まず10 ~「座して待つ」より治験に活路~

「治らない病気なら、進行を止める!」。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の確定診断後に私が公言した三つの目標の一つだ。止まらないのなら、全力で進行にブレーキをかけてやろうじゃないか。「座して死を待つ」のはまっぴらご免。手段は選ばんぞ! 

何せ「原因不明、有効な治療法なし」だ。病名を告知された8年前は、リルテックという錠剤が唯一の保険適用の薬だった。だが、その効果とて「人工呼吸器を着けるまでの期間を平均3カ月遅らせる」程度という。主治医に治験でも何でも受けたい旨を申し出た。 

主治医から芳しい返事がない中、耳よりな情報を得た。小学3年生の時にボーイスカウトで同じ班になって以来、中学、高校、大学まで出席順が並んでいた宮地君が教えてくれた。「東北大でエビデンス(科学的根拠)のありそうな治験をやっているぞ」。宮地君は脳神経内科医の宮地先生になっていた。

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イラスト・銀杏早苗

自分の歯科医院は代わりの先生に任せて、心は東北大病院に飛んだ。仙台まで行く気満々になり、うまそうな牛タンの店を調べたりした。主治医に治験の参加を依頼したが、頸椎(けいつい)症の手術を受けていたのがネックで、書類審査ではねられた。 

すると、宮地先生がまた、三次市のビハーラ花の里病院でも治験があると教えてくれた。ビタミンB12製剤の大量投与と、脳梗塞の治療薬と抗生剤の組み合わせが、ALSの進行を遅らせるかもしれないという。すかさず紹介してもらい、間もなく治験を受けるための短期入院となった。 

入院してみると山の中のこの病院は、全国から治験を受ける患者が集まるALS治療の最前線基地だった。当時、多くの患者は、リルテック錠以外の有効な治療が受けられずに途方に暮れていた。そんな中で私は、今、考えられるベストな治療を受けている。治験に精神的安らぎを見いだし、全力で取り組んだ。 

現在も病状の進行にブレーキをかけるべく、あらゆる情報網を駆使して、ベストな治療を求めている。iPS細胞を使っての新薬開発が活発な昨今、多くの薬が治療に応用されるはずだ。ALSを取り巻く環境は「お先真っ暗」ではない! そう思えば治療もまた楽しい。 

<中国新聞 2019年(令和元年)5月22日(水曜日)掲載>