筋萎縮性側索硬化症(ALS)に似た脊髄性筋萎縮症(SMA)という病気がある。ALSと病態や発症後の経過もよく似ている。大きく違う点は、乳幼児時期になることと、遺伝性であることが明らかな点だろう。「乳幼児のALS」とも呼ばれている。
私はALS発症以前には知らなかった。患者に会ったこともなかった。現在では多くのSMA患者と接するようになり、理解を深めたつもりだ。ALSと同じく運動神経だけが侵されるので、知能や知覚には異常は見られない。特殊なパソコンを使って大学を卒業した人や、センター試験で9割以上を得点し京都大で学ぶ学生もいるという。

2018年8月、こんな報道があった。「人工呼吸器使う女児の母親に『養護学校のほうが合っている』 兵庫・宝塚市教育委員が発言、差別認定」
兵庫県宝塚市の公立小4年の女の子はSMAを患っていた。70代の男性教育委員が、この女児の母親に「養護学校のほうが合っているのでは」と発言した。母親が「本人がこの学校に行きたいといっている」と返答したところ、「本人はそうかもしれないけれど周りが大変だ」「みんな優しいんやね。中には『来んとって』という学校もあるからね」と言ったという。
こんな例もある。友人で人工呼吸器を装着しているSMA女性は、自らの暮らしを会員制交流サイト(SNS)に公開している。そのSNS上に、見知らぬ人から「そんな姿で生きていて楽しいのか? 何のために生きているのか?」と書き込まれて泣いていた。
宝塚市の一件はおそらく教育委員に悪意はなかったのだろう。知能には影響がないという病態を知らないために起きたと思われる。
ALSと違い、SMAは乳幼児期に発症するため、「指折り数えることができないので、数の概念がつかみにくい」「声を発することができないので、言葉を覚えにくい」という傾向がある。ペンを持つこともできず、学習に大きな障害があることは明白である。
しかし、体が自由にならないからこそ、学問を身に付けることは生きていく上で重要なはずだ。困難を抱えながらも教育を受けたいという本人や家族の願望を断つような発言は許されない。
<中国新聞 2019年(令和元年)8月14日(水曜日)掲載>