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ALSひるまず力まず25 ~30年の間に治る病気になる!~

ALSひるまず力まず25 ~30年の間に治る病気になる!~

夢の中の私はたいてい健常者である。目が覚めると体の動かない現実にショックを受けるのが毎朝のルーティンだ。「不治の病」といわれる筋萎縮性側索硬化症(ALS)だが、それは「今のところ」不治なだけだ。iPS細胞の登場もあって根本治療に急速に近づいており、完治可能になる日も夢ではない。

人工呼吸器を装着する前には日に日に弱る体を思っては、死ぬ日のことばかり気になっていた。しかし、ピタリと進行が止まった今、このまま平均寿命まであと30年間生きられそうな気がする。自分の体だからよく分かる。いや必ず生きる! 不治の病ALSだからこそ、人一倍「生」への執着が強いのさ(笑)。

Hirumazu25
イラスト・銀杏早苗

「30年の間には必ず治る病気になる!」。そう信じるので準備もぬかりない。いつでも歯医者として診療を再開するつもりでいる。誤嚥(ごえん)性肺炎の予防に有効とされる、声門を閉鎖する外科的手術も受けないことにしている。治れば再びしゃべり倒すつもりだから、声門が元に戻らないのでは困るのだ。

病気が治っていくってどんなのだろう? 病気の進行のように、ゆっくりと何年もかけて戻るのかな? あるいは手術を受けて、麻酔から目が覚めるとコロッと治っているのかな? 想像しただけで楽しいぞ。「病気が治る=神経細胞の回復」といえるので、痩せ衰えた筋肉を復活させるのには月日が必要だろう。

生まれ変わった私はデブにならないように、バランスよく筋肉を付けたい。そして腕力まかせではなく、背負い投げを中心とした正しい柔道を身に付けるぞ。モトクロスも寄り道をせずに、いいマシンといい体制で今度こそ国際B級(国際A級は多分無理)を目指す!オートバイで世界一周してもバチは当たるまい。

今は口から食べられないが、もともと超食いしん坊だったので、プロ料理人になるのもいい。その気になって料理番組を見ては、勝手にメニューを組み立てるのも楽しい。誤嚥性肺炎で死にかけた経験から、大学の研究室に戻って誤嚥性肺炎の研究もしてみたい。おっと、これは娘と机を並べることにもなりそうなので、多分嫌われるな。

 こんなことを日々想像させてくれるALSは、わが親友だ。

<中国新聞 2019年(令和元年)9月18日(水曜日)掲載>