四六時中、仕事ばかりでは息が詰まりそうになる。体は動かなくとも心まで筋萎縮性側索硬化症(ALS)に侵されてはならない。楽しみを持つことは仕事と同様に大切だ。

小学生の時にラジカセを手にして以来、オーディオに興味を持った。当時多くの男子は、自転車かラジカセかカメラに夢中になった。私は途中でオートバイと車に浮気したが、ALSのおかげで二十数年ぶりに本来の趣味に帰ってきた。
手は動かなくても耳は健在だ。4千枚分のCDを音楽再生ソフト「iTunes(アイチューンズ)」で操れば、夢のような音楽環境ができる。パソコンで原稿に向かうときも、ベッドでリハビリを受けるときも、お気に入りの音楽で部屋を満たせば、自然と笑みがこぼれる。
スピーカーも自作する。部品を選びながら図面を引き、出来上がりの音を想像するのは何よりも楽しい。ロックコンサートにも足しげく出掛ける。ライブハウスでは、主催者の配慮により最前列が指定席だ。
フェイスブック(FB)に日々の暮らしを投稿するのも楽しい。遠く離れた同級生、歯科医の仲間、全国の患者と連絡を取るようになると、社会が広がった。病名告知と同じ2011年10月に始めたのでALS歴と同じだ。FBのサービスが終わる時は、私のALSが完治する日か死ぬ日だろう(笑)。
愛犬のチワワのハレと戯れるのも、生活に潤いを与えてくれる。視線入力パソコンの人工音声で「ハレ君!」と呼べば、どこからでも駆け付けてくれる。どうやら犬なりに、父さんは体が動かせないけれども、自分を愛してくれているのが分かるようだ。
私には大学1年の娘がいる。病人の前に一人の父親で、娘を思う気持ちは人と変わらない。娘が小学6年のときにALSを発症し、親子3人で病状の進行に追われた。中学、高校の間は父親らしいことをしてやれずに寂しい思いもさせたはずだ。それでも娘は私の背中を見てくれていた。
今、私の母校の歯学部に通っており、学校や部活のこと、友達のことなどの話をしてくれる。学校の先輩として歯医者の先輩として、そして父として、これまで以上に頑張らなくては!
<中国新聞 2019年(令和元年)9月4日(水曜日)掲載>