「シュー、シュー、シュー」。人工呼吸器の機械的な一定のリズムが、自室に響く。私はひたすらに天井を見つめる。自力では寝返りすらできず、誰かに気付いてもらうまでジッと我慢するしかない。そう、私は人工呼吸器を装着したALS患者だ。

ALSとは筋萎縮性側索硬化症のこと。運動をつかさどる神経が侵される進行性の病だ。知覚や自律神経には症状が表れない。「蚊が止まって血を吸っているのは分かるが、払いのけることができない」と言えば分かりやすいだろうか。
人工呼吸器を装着しないと、発症から3~5年で呼吸不全により死に至る病でもある。年間に10万人当たり1~2人が発症するといわれ、全国には9千人以上、広島県内に200人以上の患者がいる。
これだけ多くの患者がいるにもかかわらず、「原因不明」「治療法なし」と言われており難病に指定されている。多くの研究者の努力で原因解明に近づいており、根本治療法の確立に期待している。
ALSに体を侵されて8年が過ぎた。人工呼吸器を装着して3年がたつ。人工呼吸器を着けると全く声は出ない。手足はほとんど動かなくなった。三度の飯より好きだった食事(あっ、矛盾してる=笑)も飲み込めないので諦めた。
太鼓腹を貫いて胃袋から皮膚まで貫通する穴を開ける「胃ろう」で栄養を補給する。80キロ以上あった体重も47キロになってしまった。あれだけ太かった首も随分細くなり、首が座らなくなった。排せつから着替えまで日常のすべてに介助が必要だ。自在に動かせるのは眼球とまぶただけ。それでも生き抜くことを私は選択した。
長年の趣味のモトクロスレースも、中学生で始めた柔道も諦めた。でも、体は動かなくとも心の中では今でもライダーだし、柔道という「道」も歩み続けている。いわゆる歯科診療はできなくなったが、心は今でも歯科医師だし、今後も歯科医師として生きていく。
病気の影響を受けにくい眼球の動きでパソコンを操り、多い日は一万文字を入力する。私は病人として療養生活を続けるつもりはない。社会の一員として社会生活を続けたい。これからが人生の勝負だ!
<中国新聞 2019年(平成31年)3月6日(水曜日)掲載>