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ALSひるまず力まず17 ~後ろの席から邪魔扱い 何でだ~

ALSひるまず力まず17 ~後ろの席から邪魔扱い 何でだ~

しゃべれないから、車いすだからといって自宅に引きこもっていては、心まで病気になってしまいそうだ。 私は車いすに視線入力パソコンを取り付けてどこにでも出掛ける。 自家用車や介護タクシー、新幹線、路面電車、時には路線バスに乗って外出を楽しむ。

 耳はよく聞こえる。コンサートホールやライブハウスにもよく出掛ける。たいていはアーティストや主催者が車いすでも快適に過ごせるように、うれしい配慮をしてくれる。しかし、米国のグラミー賞ジャズシンガー、ノラ・ジョーンズのコンサート会場ではこんな扱いを受けた。 

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イラスト・銀杏早苗

車いすで鑑賞し、介助が必要な旨を事前に連絡した上で、車いす席に到着した。すると背後から「そこっ、見えなくなるでしょ! どういうこと?」と罵声が飛んできた。振り返ることができないため定かではないが、声の様子から60代の女性とみた。会場スタッフにも大きな声で「私はお金を払ってこの座席を買ったのよ」と。(ワシも金払っとるわ! 妻と介助者のを含めて3人分) 

「ロザーナ」「アフリカ」で知られる米国のロックグループTOTOのコンサートでも、後席より「邪魔だ!」と罵声を浴びせられた。筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘っていたメンバーの一人が、亡くなったばかり。彼も草葉の陰で泣いていることだろう。  

世の中のバリアフリーが進む現在だが、車いすで出掛けるとさまざまな場面に出くわす。車いすに乗らないと分からないだろうが、道路の途中で歩道が途切れていたり、新しくできた歩道であっても路面に石畳風のタイルが貼られていたり…。「わざわざ路面をガタガタにしてるのか」と思うことがある。旅に出ようと思っても、行き先のJRの駅での介助を断られ、旅を断念したこともある。 

何でもかんでもバリアフリーが良いと言うつもりもない。名古屋城の大天守が木造再建されるとの報道に「バリアフリー化を。時代の逆行だ」と障害者の団体から声が上がっていると聞く。歴史的建造物の魅力を伝えるため、私自身は車いすで入れなくなっても、歴史に忠実な再建に賛成だ。でも、少なくとも公共交通機関や道路はバリアフリー化が進むといいなあ。   

<中国新聞 2019年(令和元年)7月24日(水曜日)掲載>