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ALSひるまず力まず24 ~介護必要でも働く権利がある~

ALSひるまず力まず24 ~介護必要でも働く権利がある~

手は動かなくなり、義歯を作ったり、歯を削ったりはできなくなった。が、今も現役の歯科医師だ。やめたつもりはない。広島市歯科医師会の広報部副委員長でもある。対外向けの広報活動と、会員向けの会報誌づくりが主な仕事だ。

Hirumazu24
イラスト・銀杏早苗

人工呼吸器を着けているためしゃべれないが、パソコンを用いる仕事ならちゃんとできる。文章を書く能力や動画を編集する能力は増したように思う。歯科医師会の仲間は遠慮なく仕事を用意してくれる。これぞ真のバリアフリーだ。できる仕事には全力投球じゃ!

医療職や学生に向けて、パワーポイントを視線で操作して、講義や講演をすることもある。誤嚥(ごえん)性肺炎を防ぐはずの歯科医なのに、誤嚥性肺炎を起こした経験も、口の中のケアについて話すのに役立っている。

歯科医として筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して何ができるのかを考え、活字として残す活動もしている。広島県歯科医師会の会報誌には「ALS恐るるに足らず 歯科医が綴(つづ)るALS考」と題する手記を長期連載中。3年目だが、ネタは尽きない。書き続けることで暮らしに張り合いもできたし、何より知的好奇心を満たしてくれる。この連載も会報誌を読んだ中国新聞の記者から依頼されたものだ。

私は病気に侵されようとも、仕事は続けるべきだと考える。できなくなったことを憂うのではなくて。形は変えてもいい。努力すればできることは無限大だ。専業主婦だった女性が、おふくろの味を伝えるのも立派な仕事だろう。

ただし大きな問題がある。重度障害者が経済活動をすると、受けられない介護のサービスがあるのだ。分かりやすく言うと、家でテレビを見て過ごすにはヘルパーを頼めるが、仕事をするとそれができない。これでは労働意欲が湧かない。介護が必要な者も働く権利があるはずだ。少なくとも私は働きたいし、納税もしたい。

さいたま市では本年度、重度障害者が在宅で働く場合に、ヘルパーを利用できるようにしたという。さいたま市だけでなく全国で、出勤を伴う仕事でも利用できるようにしてほしい。制度が変わることを信じて、人工呼吸器を装着した私は仕事を続ける!

<中国新聞 2019(令和元年)9月11日(水曜日)掲載>