私の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を中心に連載を進めてきましたが、皆さんどう感じましたか? この病気はなかなかの難敵だが、幸いなことに先人たちの経験から、次に起こる症状が容易に予見できる。心構えをして、準備をすることも可能だ。

ALSになっても新しい出会いがいっぱいある
口から食べられなくなり、体重が減ってから受ける人の多い「胃袋ピアス」(胃ろう)は、体重80㌔のころに太鼓腹を貫いて開けた。呼吸困難になって急いで開けることの多い「喉ピアス」(気管切開)は、人工呼吸器を着ける2年も前に開けて備えた。視線入力パソコンも、両手でかろうじてマウス操作ができるうちに導入。視線とマウスを併用しながら、いち早く操作に慣れた。
健康に暮らしていた私は自分の体が動かせなくなるなんて想像すらしていなかった。似たような病気や事故で、頭ははっきりしているのに体が自由にならない方が意外といる。皆さんや周りの方が突然、そうなることもあるかもしれない。そんな時にちょっとだけ私を、この連載を思い出していただけると幸いだ。
多くの方から「病気に負けず、前向きですごいですね」との言葉を頂戴するが、微妙にニュアンスが違うように感じる。この病気はあらがってみたところで歯が立つような相手ではない。それに早くに気が付き、病気を受け入れ、長く付き合うことにした。自己のできることを見つけ、そんな中でベストを尽くすってところだろうか。
ALSは進行に伴って、次から次へと体の機能を奪っていく。そんな様子を見て多くの方が同情する。でも、歩けない脚の代わりに車いす、のみ込みのできない口の代わりに胃ろう、動かぬ手の代わりに視線入力パソコンがある。呼吸を助けるのは人工呼吸器だ。病状が進むと、失った機能を回復するツールが増えるのが病気の特徴。義足や義手、歯がない人の入れ歯、目の悪い人の眼鏡と違いはないはずだ。
ALSは奪うばかりではない。新たな出会いがあり、体が動かないことで学んだこともたくさんある。失ったものを10とすると、得たものは6といったところ。これからの生き方次第で、6を8に、10に、15にできるものと私は信じる。
人生、これからが勝負じゃ!
(おわり)
<中国新聞 2019年(令和元年)10月9日(水曜日)掲載>