4285309 m

ALSひるまず力まず4 ~その後の人生 支える告知を~

ALSひるまず力まず4 ~その後の人生 支える告知を~

ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者に限らず、治りにくい病気の患者にとって、病名の告知は非常にデリケートな問題だろう。

「どうやらALSらしい」と言った私に、友人の医師は「ALSって、患者に病名告知するの?」と驚いた。彼はALS患者の壮絶な暮らしを知っているから、そんな発言になったのだろう。

対照的に私は、何の予備知識もなくALSという現実に直面した。すべてのことに先入観なしに対応できたのは良かったのかもしれない。他の患者に聞くと、神経内科医から病名と「死に至る」とだけ聞かされ、他に何もしてくれない例も多い「らしい」。

らしいに「」を付けたのには理由がある。多くの患者は、身体の異変を感じてから確定診断までの間に、いろいろな病院のいろいろな科を受診する。やっとの思いで診断がついたかと思えば、ALSという耳慣れない病名。その上、死に至ると聞かされると頭の中は真っ白になる。その前後の言葉は耳に届かないのかもしれない。きっとそうだ。

Hirumazu4
イラスト・銀杏早苗

また、死に至るには必ず「人工呼吸器を着けなければ」という前置きが付くはずなのだが、「死」という言葉が重過ぎて耳に残らないのかもしれない。なのに病名告知の直後に、人工呼吸器の装着の選択を迫られる。それは早過ぎるのではないだろうか。

どんな病でも、病名告知は患者のその後の「生き方」「人生」を大きく左右する。とりわけALSのように、有効な治療法がなく人工呼吸器を着けなければ死に至る病の場合は深刻だ。告知の仕方によっては、深く考えずに人工呼吸器を着けないことを選ぶ患者もいるかもしれない。

患者に大切なのは、病名告知を死亡宣告と捉えず、その先の生き方を熟考することだ。やりたかったことを目いっぱいやるのもいい。自分の価値観や思いを家族に伝えるのもいい。最後の一瞬まで仕事にまい進するのもいい。私がそうだったように、病気の進行にブレーキをかけることに、力を注ぐ人もいるだろう。

いずれにしても、これから病と対峙しなければならない患者と一緒にスクラムを組んで、背中を押すような病名告知であってほしい。

 <中国新聞 2019年(平成31年)3月27日(水曜日)掲載>