現在はまったく発声ができない。何かを伝えたくても「ア~~!」としか発することができない時期も経験した。声は出るのに言葉の通じないもどかしさと言ったら…。人の2倍しゃべり倒してきた私には耐え難かった。 ALSと診断された後、舌が萎縮してうまく発声できなくなり、どんなにゆっくりしゃべっても相手に通じなくなった。
全身が動きにくくなる筋委縮性側索硬化症(ALS)患者の闘病生活は、過酷を極めると言われる。その理由のほとんどは、コミュニケーションが取れないことによるのではないか。
声を失った人の多くが手話や筆談でコミュニケーションを図る。 しかし、声が出ないALS患者のほとんどは腕や手にも障害を抱えているため、手話や筆談は不可能ときている。

残された手段は「目」。ALSになっても視力は奪われない。全身の筋肉が動かなくなっても、眼球の動きは最後まで確保される。目を使った会話には、口の形とまばたきで文字を伝え形とまばたきで文字を伝える「口文字」や、「透明文字盤」を使う方法がある。
透明文字盤は、五十音や数字が書かれた透明な板のことだ。この板を挟んで会話する相手と向き合い、目線を動かした先の文字を相手に読んでもらう。その目線を機械に読ませるのが「視線入力パソコン」。ALS患者の最も強い味方で、私も愛用している。
インターネットの閲覧、動画の編集、テレビの視聴や録画…。パソコンに赤外線センサーを取り付けて、眼球の動きを読ませるだけで、パソコンのすべての機能を操作できる。 伝えたいことを声に出すこともできる。
私は1日の大半をこのパソコンの前で過ごす。「iTunes (アイチューンズ)」でお気に入りの音楽を聴きながら、多い日は1万字近くの文字を入力する。
私は透明文字盤と口文字、視線入力パソコンの3通りを使い分ける。 これらは、誤嚥性肺炎を起こした際も、正確な病状や気持ちを伝えるのに大活躍した。状況が伝えられなかったらひょっとすると死んでいたかもしれない。
コミュニケーション手段を確保した私の暮らしは今、会話と笑顔にあふれている。いわゆる「闘病生活」とはほど遠い。
<中国新聞2019年(平成31年)4月10日(水曜日)掲載・一部改編>